「Trick or treat!」 退屈な古文の授業が終わって、お昼休みになった瞬間 右斜め前の席に座っているマイフレンドの藍ちゃんが突然言った。 言われたのは私ではなく、右隣の席の真くん。 「・・・・・・はぁ?」 「はぁ?じゃなくて、今日は何の日でしょーか?」 「宗教革命記念日」 藍ちゃんの質問に、真くんは至って真面目に答えた。 へぇーそうなんだ。 「違うわよこの社会オタク!今日はハロウィンでしょーが!」 「それくらい俺でも知ってるよ」 「じゃぁ最初からそう言いなさいよ。・・・とゆーわけで、」 真くんに笑顔で両手を出す藍ちゃん。 「お菓子ちょーだい!」 「え・・・オレ何も持ってないよ」 「もうダメだなぁ真は。帰国子弟のナオスケくん!お手本どうぞ!!」 藍ちゃんが私の前の席にいる正将くんに何の前触れもなくいきなり振った。 「えぇお手本って?」 教科書を片付けていたときにいきなり話を振られて、苦笑いで戸惑ってる正将くん。 「Trick or treat!」 そう笑顔で手を出した藍ちゃんに、正将くんは少し考えて「I'm scared」って返して、 カバンの中からカボチャの形をしたクッキーを取り出した。 包装紙にハッピーハロウィンって書いてあって可愛い。 「正将今何て言った?」 「I'm scared。おぉ怖いって感じかな?」 英語・・・!帰国子女ってなんてかっこいいんだ! ってか正将くん何でハロウィンのお菓子持ってたんだろ。予知してた? 「はいじゃぁ真もやってみよう!」 「いやだからお菓子なんか無」 「Trick or treat!」 真くんの言葉を遮って、有無を言わせない笑顔で手を突き付ける藍ちゃん。 藍ちゃんを見てるとお菓子をねだる、って言うよりは恐喝っぽい気がするのは何で? 2人の睨み合い(・・・?)が続いて、正将くんと私は息をのんで見守る。 先に動きを見せたのは藍ちゃんだった。 「早く出さないと真の好きな人バラしちゃうよー?」 「えぇぇっ?!真くん好きな人いるの?」 あの社会オタクという不名誉なあだ名がつく真くんに好きな人が?! ・・・・・・いや別にあだ名は関係ないか。 でも超びっくり衝撃的驚愕事実発覚!! 「嘘・・・真好きな人いたんだ・・・。僕も知らなかった」 真くんの大親友の正将くんも知らなかったなんて。 さらにびっくり!! 「い、いいいないから。うん」 うわぁ漫画みたいな嘘のつき方。 「そっ、それより正将さっきのお菓子まだある?」 「あるよー」 「っじゃぁ、」 「好きな人教えてくれたらあげる」 「長谷川は何か持ってない?」 何だか楽しそうな正将くんにもらうのは瞬間で諦めたみたいで、私の方に振ってきた。 「無いこともないけど・・・」 「まさかお前も正将と同じ口か!?」 「いや、そうじゃなくって、政経の課題手伝ってくれない?」 「・・・・・・へ?」 そんなに口パカーって開くほどのことかなぁ。 「真くん政経大得意でしょ?」 「うん、まぁ・・・」 「じゃぁ決定!」 真くんが何か続けて言おうとして口を開いたけど、アメを渡して藍ちゃんの方へと気を逸らす。 「ほいよっ」 「あぁー・・・」 地獄から生還したような笑顔の真くんが渡したアメ。 正将くんのほど可愛いラッピングではないけど。普通のアメだけど。 それを見て心底残念そうな表情の藍ちゃん。 今なんとなく舌打ちっぽいのが聞こえたのは気のせいにしよう。 「長谷川本っ当にありがと」 「どういたしましてー。ってことで手伝ってね?」 「何すればいいの?」 「なんかねぇ幸福追求権の何だかんだ・・・だったと思う」 って言ったら、正将くんが「あぁ、それってグループ課題の?」って言った。 「そうそう!」 4、5人くらいで分担して取り組むことになってるんだけど、 私勉強得意じゃないから皆の足ひっぱっちゃうんだよなぁ。 藍ちゃんと真くんが何か話しこんでるから、 正将くんとグループのメンバーについてとかちょこちょこお話。 「・・・どうかした?」 「あ、いや、別に何もないけど・・・」 藍ちゃんの耳打ちが終わってから、急に挙動不振になった真くん。 どうしたんだろ。 「雪菜んとこのグループのメンバーにね、まこ」 「ちょっ!」 藍ちゃんが喋ろうとしたら真くんが全力で妨害した。 何なんだ? 真くんはなんでもないよーとか笑ってるけど、明らかになーんかありそな顔。 ・・・あ、もしかして苦手な人いたりしたかなぁ。 「・・・・・・っあ!もしかして・・・いるの?」 正将くんが、何か発見!みたいなキラキラした目で真くんを見た。 何?何がいるの?うちのグループにはフツーの女の子しかいませんよ? 「そのもしかして!」 って藍ちゃんがにっこり笑って言った。 固まる真くんを正将くんが「ふぅん」とか言いながらこづいたり、 藍ちゃんは理解者増えてよかったねーなんて笑ってる。 ・・・何なんだー? 「ねぇ何がどうしたの?」 「真にやってきた春の話だよー」 「え、今秋じゃん」 そう言ったら、私間違ったコト言ってないのに、藍ちゃんと正将くんに笑われた。 藍ちゃんにいたってはお腹抱えて涙目になるまで笑ってる。・・・何だか不愉快! さっきから真くんは俯いて黙りっぱなしだし。 ホントに何なんだ?! * * * * * * * * * * 06/10/30 ←