その人に出会ったのは、とてもとてもあたたかい春の日でした。 私は生徒会役員として入学式の準備に追われていました。 新入生が入ってくる各教室の掃除や校門前に落ちているゴミ拾い、 それから入学式の会場設営指示なんかも私の担当でした。 今日のノルマは教室に新入生用のプリント類を運ぶ事と、下駄箱周辺の飾り付けでした。 春の景色が広がっているであろう窓の外を見る暇がないほど目まぐるしく動く私は、 足元にあったそれに気付いていなかったのです。 「あ、ストップ!」 印刷室から職員室への近道である校舎裏をたくさんのプリントを持って急ぎ足で歩いていた私に、 後ろからそう声がかかりました。 びっくりして足を止め、振り返ると誰もいません。 きょろきょろと辺りを見回すと、どうやら声は後ろは後ろでも上から降ってきたものでした。 上の教室の窓から、誰かが身を乗り出しています。 「何ですか?」 「足元気をつけてー」 逆光で顔は見えませんでしたが、声から男子生徒だということは分かりました。 プリントを横によけて足元を見ると、そこには黄色いタンポポがありました。 コンクリートの割れ目から、一輪だけ出でいたのです。 もし私がそのまま歩いていたら、その花を踏んでいたでしょう。 「あ・・・・・・」 「間に合ったー?」 「大丈夫です」 そう言って少しよけて元気に咲くタンポポを見せると少年は、よかったー、と呟きました。 「せっかくいい天気なんだからさ、そんなせかせか歩かないでゆっくり周りを見てみたら?」 「入学式の準備が終わるまではそんなことも言ってられないんですよ」 「入学式終わったらもう桜なんか散っちゃうよ!ほらちょっと後ろ見てごらんて」 後ろを見ると、優しい暖かな色が視界いっぱいに入ってきました。 風が吹くと、花吹雪がおきてとてもきれいです。 今までどうして桜が咲いていたことに気付かなかったのか不思議なくらいでした。 「心のゆとりは大事だぞー」 上を向くと、今まで逆光だったその人の顔が、立ち位置が少しずれたことで見えました。 少年は、とても明るい笑顔で笑っていました。 見ているこっちも、元気になるような。 「じゃ、がんばってね」 「はい。ありがとうございます」 手に持っている荷物が、少し軽くなった気がしました。 *  *  *  *  *  *  *  *  *  * 今年は暖冬だから4月入ったらもう散ってたりして(笑) Thanks♪自主的課題 07/03/25